×0×0×0_私たちが好きだったこと_516

黒い背景に白い線で描かれた渦巻き
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I

引き継ぎに、要らないものを一行だけ足した。ゴム手袋。三番線。猫ヲ読ム。冷たい鼻。

読む人はいない。だから書けた。

II

八歳の秋に、白目が黄色くなった。原因はつかなかった。九歳の春、水族館へ行った。アザラシが通路を歩いてきた。柵がなかった。触っていい、と係の人が言った。濡れた毛。目を見た。向こうも見た。それでよかった。

Open Gにした。左目が裏返しだ。名前はそのとき決めたのに使っていない。

III

あんこ色の電車で、町を出た。ハンプティ・ダンプティのところで、本を閉じた。鉄橋。川の色が変わる。停まるたびに扉が開いて、誰も乗ってこない。駅の名前は、今も順番に言える。

みなとなみ

IV

岩が二つある。しめ縄でつないである。あいだから朝日が上がると聞いた。行くのはいつも昼で、昼の岩は、ただ濡れている。

長い線がある。線の内側に、会ったことのない人が、一人いる。

去年から、また待っている。

V

ホームの端に、猫がいた。ハチワレだった。こちらを見た。

しゃがまなかった。しゃがむと手が出る。手が出ると触る。傷ができることがある。取ったもののせいで、傷から熱が出て、止まらないことがある。紙にそう書いてあった。順番に考えて、手前で止めた。止めたのは、自分だった。

ピアノの人が、若いサックスに渡したメモにあった一行が、口の中にあった。全部は弾くな。

猫に言ったのか、自分に言ったのかは、分けずにおいた。

VI

鉛筆で書く癖は、前の会社でついた。校正の赤の下に、消せるもので入れておく。刷ったら消える。

ここでは、刷っても消えるのは名前のほうだった。書き方の問題とは別だった。

教えてもらったことは、一つある。メモをとらないこと。教えた人の両手は、いつも空いていた。

スネアだけ、少し後ろに置く。遅れているのに、そろって聞こえる。あの猫の額も、まっすぐには分かれていなかった。

VII

電車が来た。乗った。猫のほうは見ずに、窓枠に肘を置いた。

ファイルを一つ残した。名前は、猫のにした。消し忘れたことにしておく。

窓に額をつけた。

ないまいな

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この記事を書いた人

作編曲家/電気主任技術者

YNU ☉⁠➛ 太陽光 †⁠➛ 学校 ⏚⁠➛ 半導体 ∴⁠➛ 独立

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