これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。
1
朝、家を出ると、ローゼの前を通る。夜に上がる階段には、隣の店の箱が積んである。二階の窓は、ほかの窓と同じ色をしている。
2
角のコンビニに入ると、店の人が棚から煙草を一つ取って、レジに置く。番号は言っていない。越してきて、まだ一か月か二か月だ。
弁当は買わずに、煙草だけ受け取った。
3
商店街には入らずに、住宅地の道を歩く。本屋が一軒ある。ガラスに、猫の絵の葉書が貼ってあった。
店の人は、あの学園を出たと言った。それを聞いたのは、もっとあとだ。
4
川を渡る。桜の葉は半分が赤く、半分はまだ緑だった。
川のそばの公園に、新幹線の形をした遊具がある。誰も乗っていなかった。
5
川の向こうは、塀が長くなる。どこまでも塀の続く家が一軒ある。俳優の家だと、あとで誰かに聞いた。
門の前の落ち葉は、きれいに掃いてあった。
東の門に着くと、八時十五分だった。

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