これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。
1
鍵の束には、どれも札が付いている。ヒミズさんは一本ずつ、札の字を読ませた。
一本だけ、札のない鍵がある。それはいい、とヒミズさんは言った。
2
台車に古い機器を載せて、旧校舎へ運んだ。空調の機械室の前を通るとき、ヒミズさんが言った。
空調機の扉だけは静かに閉めろ。あっという間に、吹き出し口に音がいく。
台帳と現物を突き合わせていくと、図面にない扉が一つあった。
3
ヒミズさんは札のない鍵で扉を開けて、中に入った。扉は半分だけ開いたままになった。
部屋の真ん中に、段差が一つある。壁に大理石の配電盤があって、刃の形をした開閉器が並んでいる。継電器の小さな窓の一つだけ、札が落ちたままになっていた。
段差に、図書館のナギスケが座っていた。
4
ヒミズは落ちた札を見て、戻さない。
ナギスケが黒い眼鏡を少し押し上げて、もういい? と聞いた。ああ、もういい、とヒミズは言った。
扉は静かに閉められた。
隣の空調機の扉を、ヒミズは閉めた。
ガタン。

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