これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。
1
節目の年の年表は、まだ埋まらないところがある。Sに頼まれて、地下の倉庫から段ボールを二つ、台車で上げた。
箱の側面には、鉛筆で名前が書いてあった。消しゴムで消した跡だけが残っている。
2
中の紙は、どれも角が揃っている。付箋には鉛筆の字で、要、不要、とだけ書いてある。
挨拶文の下書きが何枚もあった。赤い線は、鉛筆の字を何本も横切っている。
3
刷り上がった冊子が一部、下書きの下にあった。最後のページに、関わった人の名前が並んでいる。
下書きの同じページには、鉛筆でもう一行ある。冊子のほうには、その行がなかった。
鉛筆の字は、どれも消しゴムで消せるくらいの薄さだった。
4
引き継ぎの表は、三枚にわたっている。項目と日付と置き場所が、同じ幅で並んでいる。
最後の行だけ、項目の欄に、仕事ではないものが書いてあった。
冷たい鼻。ゴム手袋。三番線。網戸。猫ヲ読ム。
置き場所の欄は空いていた。
5
束のあいだに、印刷したメールが一枚はさまっていた。差出人の欄は、端が折れて読めない。
……君のために。
……にはいらない。
……いらない。
もう一度、上から読んだ。紙を元の束に戻して、角を揃えた。

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