これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。
1
そういうことね。
Sが考えていることは、ずっと単純だ。
公益のためであること。同じ目に遭う人をこれ以上増やさないこと。
2
前任の彼女は、まず総務部人事課の課長補佐のところへ行ったらしい。
一時間近く聞いてもらえたという。相槌はやわらかかった。何も書き留めなかった。一度だけ、名前を間違えた。
そのあと、記録を持って弁護士のところへ行った。すぐには行かなかった。
これなら確実に勝てる。そう言われたという。
それでも訴えなかった。相手は大きい組織で、そこに与える影響があった。よくしてくれた人たちもいた。
3
記録は、途中で二か月空いている。
そのあとは、日付の書き方が変わっていた。一桁の月から、ゼロが抜けている。
それから、いなくなった。
4
書くのは、記録から確認できることだけだ。
