2×1×0×_成城にてうちあわせ_6

記憶の書
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これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。

1

配属されてすぐのSは、何も知らなかった。

前任の女性が休職していること。引き継ぎが書類だけであること。わかっていたのはその二つで、理由は聞かされていなかった。

外から来た人だったらしい。仕事のできる人だった、と何人かが同じ言い方をした。

2

理由は、いくつかの場所から届いた。

示し合わせたわけでもないのに、同じ話が違う口から届いた。組織の中で同じ話が別々に届くとき、たいていそれは前から共有されている。

内容はここに書かない。書けば彼女がわかる。

ただ、要点は一つだった。声を荒げられたことは一度もない。出した案は必ずどこかで止まる。止めるのは決まって内部の人で、理由は説明されない。

それを、指導と呼んでいた。

3

なるほど、と思ったらしい。

図の上には出てこない線がある。箱と箱のあいだに、矢印の描かれていない線が引かれている。

とてもよくできている。なるほどね。

なるほどね、というのはNの口癖だ。僕がそれを使うようになったのは、たぶんこの話を聞いた頃だと思う。順番が逆に見えるかもしれないが、記憶というのはそういうふうに前後する。

4

このときSさんが聞かされた話には、続きがある。前任者の私生活についての話だ。誰かの人生の説明として、それらしく整っていた。

だから線は引かない。ここには箱だけ置いておく。

配属された人間に対して、前任者の私生活が最初に届く。それは、その職場が何を扱っているかということだ。

Sさんはその朝、自分がどの箱に入れられたのかを知った。

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この記事を書いた人

白晝堂々(はくちゅうどうどう)

作編曲家/電気主任技術者

YNU→半導体メーカー→再エネ事業→2024年から独立

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