2×1×0×_成城にてうちあわせ_6

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これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。

1

ある日、Sは経理課の同僚に声をかけられたそうだ。

ある年度の伝票について聞きたいという。発注の金額と、その理由。

ああ、それなら窓際のキャビネットの二段目だね。Sはそう答えて、席を立った。

2

その部屋のことは、何度か聞いた。机を島にして並べてある。奥から手前に向かって、いくつかの島が続く。縦型のブラインドは、どの窓も同じ角度で閉じていた。

どの島にも、同じ紺色のリーフレット立てが置いてある。寄付のお願いだ。余白の取り方が、玄関に積んであったものと同じだった。金色のポストをかたどった箱が、その横にある。

窓際のキャビネットは、ある席のすぐ左隣にあった。扉に当番表と内線の一覧が貼ってある。上には段ボールが積んであった。

青いバインダーを引き出した。同じものが棚に何十冊も並んでいる。背のラベルは全部、同じ書式だった。ページを繰った。

そこまでだったという。

3

紺色の椅子が飛んだ。キャスターが鳴って、壁で止まった。

飛び出してきた。三歩あった距離を、たしかに走ったとSは言う。事務室の中を、走ってきた。

上司の許可なく発注関連の書類を開くものじゃない。

バインダーは彼の手の中にあった。声は大きくなかった。島の向こうの誰も顔を上げなかった。

指導だった。

4

前にいた会社では、そういうことはあり得なかったとSは言った。監査が入る。発注まわりを閉じたままにしておくこと自体が、禁じられていた。

中に何があったのかは、Sも知らない。僕も知らない。

僕らは笑った。笑うところなのかは、よくわからなかった。

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この記事を書いた人

作編曲家/電気主任技術者

YNU ☉⁠➛ 太陽光 †⁠➛ 学校 ⏚⁠➛ 半導体 ∴⁠➛ 独立

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