これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。
1
廊下で、アカシさん、と誰かが呼んだ。呼ばれた人は手を上げてから、こちらへ来た。
土曜の午後、隣の駅、三階。名刺は両手で、先に出すものですよ。セッションしましょう、と言って、もう歩き出していた。
面接のとき、向かって右に座っていた人だ。二十分ほどの面接で、左の人のことはあまり覚えていない。
2
土曜の仕事を終えて、隣の駅まで行った。
店は三階にある。階段を上がりきると、玄関に赤い絨毯が敷いてある。窓は二重で、厚いカーテンが引かれている。
3
扉を開けると、カウンターが広い。左手の奥にドラム、右手の奥にピアノ。客が、そのまま弾く側に回る店らしい。
アンプは二台ある。一台はポリトーンだ。
4
アカシさんは赤いジャケットで、ハーモニカを吹いて、Lucilleを歌った。ロックンロールだ。カウンターの端の客のほうにも、同じように身体を向ける。
気がつくと、膝で拍子を取っていた。何曲やったのかは、覚えていない。最後の曲が終わってからも、しばらく席にいた。
5
階段を下りた。
