これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。
1
月に一度、旧校舎の盤を見て回る日がある。ヒミズさんが台車を押して、僕は帳面を持つ。台車を止めるたびに、腰の金具が鳴った。鍵の先が、いくつか付いている。
掲示板に、点検の停電のお知らせが貼ってあった。夜の一時間だけ、とある。
2
空調の機械室の前を過ぎると、図面にない扉がある。ヒミズさんは、腰の鍵を見もしないで差して回した。扉は今日も、半分だけ開いたままになる。
3
中の盤は、ふつうに動いている。ヒミズがメーターの数字を読み上げて、僕はそれを帳面に写す。継電器の窓の一つは、前に来たときと同じで、札が落ちたままだった。ヒミズは、今日も戻さない。
奥の棚に、手のひらに載るくらいの録音機が一つ置いてある。手首に通す紐が付いている。誰の物かは、聞いていない。
4
廊下に出て、扉を閉めた。台車の向きを変えながら、ご安全に、とヒミズさんが言った。
5
古い設備は、操作を覚えるために残してあることがある。これもそういうものだと思った。
