これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。
1
Sと歩いたことが一度だけある。駅から駅まで。私鉄で一駅の区間を、歩いた。
2
学園のある側は、道が広い。生垣が続いている。住んでいる人たちの申し合わせで決まったものだと、あとで知った。
町が先にあって、学園が来たのではない。学園が来て、土地を売って、町ができた。経営費のためだったという。一区画が二百十坪から四百五十坪。
憲章がある。塀のことや、庭の木のことが書いてある。
駅前の不動産屋の窓に、貼り紙が出ていた。桁を、僕は一度数えた。
3
朝は、送りの車が列になる。ハザードが並ぶ。降りた子が、鞄を持ち替えて門に入っていく。
午後も列になる。習い事の時間までに、どこかへ運ばれていく。
雨の日でも、傘を持っていない子が多い。Sは何も言わなかった。
4
坂を下ると、商店街に出る。長い。端から端まで歩くと、けっこうかかる。
少し先に撮影所がある。特撮の会社がこの町にできたのは、六十年ほど前だという。商店街は、その人たちと一緒に大きくなった。
いまは商店街に名前がついている。怪獣と戦うほうの名前だ。
5
僕が住んでいたのは、商店街から一本入ったところだった。名前に、太陽と、平ら、という言葉が入っていた。楽譜では、半音下げる記号だ。
ローゼは、そこから歩いて数分の、二階にある。
6
同じ川が、両方の下を流れている。崖の線に沿って、水の出るところがある。
7
階段の手すりに一度手をかけた。
上がる前に、Sが振り返った。
そういう町だね、と言った。悪くは言わなかった。
アーケードの蛍光灯が、一本だけ点滅していた。

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