これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。
1
十一年前、Sの友達が死んだ。ベースを弾いていた人で、仕事は溶接工だった。
家は尼崎にあった。Sは電車に乗って、途中でバスに乗り換えて、そこまで行った。乗り継ぎのある道は、帰りに一人で逆にたどることになる。
2
知り合ったのは、酒屋でやっていたセッションだった。彼はそこでベースを弾いていた。十二歳上で、干支が同じだった。それで、えとバンドを組んだ。
眠れないときは、ペニスを頭の上にのせるところを想像するといい。そうすると眠れる。Sにそう教えたのは、彼だった。
3
セッションで何度も会っていた。弾いているときは、左手が動いて、右手が動いて、本人が揺れていた。見ていたのは、その動きのほうだった。
4
部屋には、バンドのTシャツがたくさんあった。どれもきれいに畳まれて、並べてあった。お母様に声をかけて、何枚かもらった。メイキング・ザ・ロード。ドゥーキー。ネヴァー・マインド・ザ・ボロックス。
ジョニオも、ジョニーも好きだったらしい。それも、そこで初めて知った。
ベースもあった。ヘッドに、M#245と書いてあった。アトリエZが最初に出したモデルだった。初めのころのものは、ブリッジがバダスだった。いまは自社のものに替わっている。何度も見ていたのに、Sはそれを、そこで初めて読んだ。
動かなくなると、細かいところが見えてくる。
残されたものは、続けなければいけない、とSは言った。
5
ある作家は、葬式に行かないと書いていた。黒枠の写真を見てしまうと、本当に別れたことになる。見なければ、いつかどこかの街で、ばったり会うような気でいられる。
その作家は、飲食店の階段から落ちて、そのまま戻らなかった。
6
Sも、遺影を見るまでは、そんな気でいたという。
僕は、相づちを打たなかった。
遺影の彼は、金髪だった。

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