2×1×0×_成城にてうちあわせ_12

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これも記憶で書く。だから細部は、記憶のかたちをしている。

1

Sは、八尾の、できたばかりの大学の一期生だったという。

家は町工場で、太陽光のパネルを屋根に留める金具を作っていた。曲げて、穴を開けて、めっきに出す。夏は、鉄板を曲げる機械の熱と屋根の熱が中で合わさって、朝の九時には汗が止まらなくなる。父親は首にタオルを巻いて、昼まで一度も座らなかった。それだけの仕事で、それだけの仕事がもう長くないことは、Sが高校のころには分かっていた。大学だけは行っとけ、と父親は言った。近くの、できたばかりの大学だった。

2

テニス部と呼べるものはなく、八人で始めたのだという。リーグは一番下からだった。コートは土で、真砂土で、安いぶん、よく剥がれる。一年目はほとんどコート整備で、球を打った記憶がない、とSは言う。水を打って、押さえて、乾く前にもう一度押さえる。左官の仕事に近かった。隣は小さな空港で、セスナが低く入ってくると、全員が手を止めて見送った。

3

四年生まで残ったのは五人だった。リーグは一つ上がった。コートは、卒業した翌年に駐車場になった。真砂土の上にアスファルトを敷くのは、一日で済む。工場は、その二年あとに止まった。機械は業者が引き取り、あの暑さだけが、どこにも引き取られずに消えた。

4

たかがテニスだと、Sは言う。四年かけて押さえた土も、父親が三十年立っていた場所も、なくなるときは同じ速さでなくなった。そういうものを、たかが、と言う。されど、とは言わない。言わないところが、たぶんこの人のテニスだった。

5

この話を、Sはあの半年の話のあとにした。順番に意味があったのかどうかは、聞かなかった。

ローゼの窓の外で、商店街の灯りが一つずつ消えていくのを、僕らは黙って見ていた。

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この記事を書いた人

作編曲家/電気主任技術者

YNU ☉⁠➛ 太陽光 †⁠➛ 学校 ⏚⁠➛ 半導体 ∴⁠➛ 独立

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