記憶の書

いま、本編十五話と番外編一話。二〇二六年七月から書いている。上から順に並べてある。

成城にてうちあわせ

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商店街の一番奥のバーで、同じ時期にあの場所を離れた二人が会う。片方は記録を残していて、片方は何も残していなかった。

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Sは代理店から移ってきた。十年分の手帳を開くと、インクは褪せていて、日付とやりとりは褪せていなかった。

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内部通報の図を描いてみる。箱と矢印は一本も途切れていない。ただ、すべての矢印がはじめのひとつの箱を通る。

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ロッカーが一緒になる管財課の人がいた。受電の話をしたあと、同じ朝に、ここは早く出て行った方がいいと言われた。

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休職した前任者の引き継ぎ書類は、角が揃っていた。日付は一桁の月にもゼロがついている。名前はどこにも入っていなかった。

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経理課に聞かれて、窓際のキャビネットから青いバインダーを引き出した。ページを繰った。そこまでだった。

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彼女はまず人事の課長補佐のところへ行った。一時間近く聞いてもらえた。何も書き留められなかった。

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例の人がどこから来たのかを考えた。ここから先は確認できない話だ。外から見ると、それは指導と呼ばれている。

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待つという判断について、Nに聞いた。条件は二つ。記録が消えないことと、影響力が実際に切れること。

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五席しかない店の棚には、数え切れない瓶と、真空管のアンプと、壊れたギターがかかっている。

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電力会社に入って一年目の、十九歳の人が亡くなった。Sは自分の話をしなかった。僕もしなかった。

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四年かけて押さえた土のコートは、卒業した翌年に駐車場になった。父親の工場は、その二年あとに止まった。

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音楽が止むと、五十ヘルツの低い音が聞こえる。壁のギターは高音の弦が切れていて、残っているのは低音の二本だけだった。

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駅が二つある。学園のある側は、学園が土地を売って町になった。もう一方の側は、撮影所の人たちと一緒に大きくなった。

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十一年前、Sの友達が死んだ。ベースを弾く溶接工だった。部屋には、畳まれたバンドのTシャツが並んでいた。

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僕の番になる。日付はなく、形と線だけが残っている。階段のほうから、誰のものかわからない声がした。

私たちが好きだったこと

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十七歳の夏の断片。二人称で書かれた、記憶とは別のかたちをした記録。四つ数える。白線を踏む。そう。踵から落ちろ。